生後6か月からの日本脳炎ワクチンの接種を推奨します

2024年は関東地方での日本脳炎が増えました

生後6か月からの日本脳炎ワクチンの接種を推奨します

 従来、日本脳炎患者は西日本を中心に年間10例程度が報告されていました。しかし、2024年は、日本脳炎患者9例のうち6例が関東地方から報告されました。関東地方の報告例は東京都1例、埼玉県1例、千葉県1例、茨城県1例、群馬県2例と全域で報告されました。
 日本脳炎ワクチンは3歳になると、自治体から予診票が送られてきますが、定期接種の対象年齢は生後6か月からで、無料で接種することができます。今までは、3歳未満の方には西日本に里帰りする際やアジア諸国への旅行する際には接種を推奨していました。しかし、関東全域での日本脳炎報告例が認められたため、生後6か月以上のお子さんすべてに接種を推奨する方針に変更しました。
 3歳未満で接種した場合も、接種後の抗体価、接種後の有害事象の発生は、3歳以上で接種した場合と差がないと報告されています。
 6か月以上3歳未満の方で日本脳炎ワクチンの接種をしていない方は、蚊の活動が活発になる夏前までに接種を済ませください。予診票を自治体から取り寄せ,ご予約ください。

日本での日本脳炎報告数の推移

 日本では1950年頃には5000例の日本脳炎の報告がありました。1954年に世界で最初にワクチンの接種が開始され、1967年に特別対策として広く使用されるようになりました。1995年以降は定期接種として接種されています。ワクチンの接種率向上、生活様式の変化、養豚と農業の近代化などで1992年以降の報告数は年に10人程度に減少しました(図1)。

図1 日本脳炎の報告数(1946~2016年)


 報告例は西日本を中心に発生していました。しかし、2024年は、報告例9例のうち6例が関東地方から報告されました。1例が20歳代したが、他の症例は60歳代以上の高齢者でした(図2)。関東地方の症例は東京都1例、埼玉県1例、千葉県1例、茨城県1例、群馬県2例と全域から報告されています。関東地方でも、西日本と同様に日本脳炎に感染するリスクがあると考えられます。

図2 地方別の日本脳炎報告例(2003~2024年)


日本脳炎の原因と症状

 日本脳炎は、コガタアカイエカなどの蚊が媒介する日本脳炎ウイルスが原因の感染症です。日本脳炎ウイルスはフラビウイルス科フラビウイルス属に属しています。蚊媒介性のフラビウイルス属には黄熱、デング、ジカ、西ナイルウイルスなどもあり、近年いずれのウイルスも分布域が拡大しており、世界的な問題となっています。
 日本脳炎ウイルスはヒトからヒトへ感染することはありません。ウイルスは増幅動物(ブタ、水鳥)の体内で増殖します。最も重要な増幅動物はブタで、ブタの体内ではウイルスが増殖し、血液中には多量のウイルスが存在します。このようなブタを吸血した蚊を介してヒトに感染します(図3)。

図3 日本脳炎ウイルスの感染様式


 日本脳炎ウイルスにヒトが感染しても多くは不顕性感染で無症状で、脳炎の発症は感染者のうち300~1000人に1人です(1例の日本脳炎症例が報告された場合、地域には他に多くの感染者が存在している可能性があります)。脳炎は5~15日の潜伏期の後に、発熱、頭痛、嘔吐などで発症し、意識障害、痙攣、種々の麻痺などが出現します。特異的な治療法はありません。流行地域では小児の発症者が多く、死亡率は5~30%で、小児の死亡率は成人より高いと報告されています。精神、知的、運動障害などの後遺症が45~65%に認められ、回復することもありますが、さらに悪化することもあります。

世界の日本脳炎

日本脳炎の流行地域
 日本脳炎はアジアの多くの国で発生し、アジア全体では世界人口の半分にあたる32億人がJ感染の危険にさらされています。ワクチンが導入されている日本、韓国、台湾では感染はコントロールされ、ワクチンで予防できる病気です。しかし、ポリオがほぼ根絶された現在、日本脳炎はアジアの小児のウイルス性中枢感染症では最も多くなっています。2011年にWHOは年に67,900人が日本脳炎を発症し、13,600~20,400人が死亡していると推定しています。
 日本脳炎ワクチンは2012年からGavi, the Vaccine Allianceによるサポートが始まっており、ネパールなどワクチンが導入された国ではJEの報告例は減少しています。しかし、2016年にワクチンが導入されていている国は12か国にとどまっています。

日本のワクチンの接種状況

日本では1995年からは定期接種として接種されていましたが、2004年に接種後の急性散在性脳脊髄炎(ADEM)が報告されたため、2005年に積極的勧奨が差し控えられ、接種率は著しく低下しました。動物愛護の観点からもマウス脳由来ワクチンから細胞培養ワクチンに変更され、2010年から接種の勧奨が再開されました。
 1995 ~2020年の14歳以下の日本脳炎報告数は、1995年以降は積極的勧奨の差し控え前の10年間は、2001年に11歳、2004年に7歳の2例のみでした。しかし、積極的勧奨の差し控え以降は2006年に3歳、2009年に1歳と7歳、2010年に6歳、2011年に1歳と10歳、2014年に5歳、2015年10か月と10年間で8例が報告されました。この期間の日本脳炎報告例を積極的勧奨の中止が影響した0~14歳と影響がほとんどなかった15歳以上にわけて、人口10万あたりの罹患率を比較すると、14歳以下の罹患率は1995~2004年に比べ、2005~15年は増加しましたが、15歳以上では積極的勧奨の差し控え前後で、罹患率の増加は認めませんでした。日本脳炎の発症はごく少数ですが、現在でもワクチンの接種をしなければ発症する可能性があると考えられます。

日本脳炎ワクチンの接種スケジュール

 定期接種の標準的な接種スケジュールでは、第1期は3歳で2回接種(接種間隔は1-4週間)、4歳で追加接種(2回目の約1年後)し、さらに第2期として9歳から13歳未満で1回、接種します。第1期の接種期間は生後6から90か月となっており、感染のリスクが高いと考えられる場合は、生後6か月からの接種が推奨されています。

 今までは、3歳未満の方は西日本に里帰りする際やアジア諸国への旅行する際には接種を推奨していました。しかし、関東全域での日本脳炎症例が認められたため、生後6か月以上のお子さんすべてに接種を推奨する方針に変更しました。
 日本小児科学会でも、「日本脳炎流行地域*に渡航・滞在する小児、最近日本脳炎患者が発生した地域・ブタの日本脳炎抗体保有率が高い地域に居住する小児に対しては、生後6か月から日本脳炎ワクチンの接種を開始する」ことを推奨しています。(日本脳炎罹患リスクの高い者に対する生後6か月からの日本脳炎ワクチンの推奨について

接種後の免疫原性と有害事象

 日本脳炎ワクチンの接種量は3歳未満では1回0.25ml、3歳以上は1回0.5mlを接種します。3歳未満の接種量は3歳以上の接種量の半分ですが、臨床試験では3回接種後の抗体価に差がないことが報告されています(図4)。

図4 3回接種後の抗体価

 また、臨床試験での有害事象は、接種部位の紅斑が約17%、接種部位の腫脹が約7%、37.5度以上の発熱が約21%(39度以上は1.8%)と報告されています。接種量の違いによる有害事象の出現頻度には差を認めないと報告されています。
 さらに、承認された後の使用成績調査では、発熱は7.6%、接種部位の紅斑は7%、接種部位の腫脹は3.2%と報告されています。

予診票の準備

 お住まいの自治体にご連絡ください。

板橋区は「予診票の発行(予防接種を受けるには)」から申請ができます。
板橋区 健康生きがい部 予防対策課 予防接種係 
0335792318

北区は「子どもの予防接種について」から申請ができます。
北区保健所保健予防課保健予防係
0339193104