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小学生中学生への三種混合ワクチンの追加接種

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 百日咳の流行 小学生中学生の幅広い年代に三種混合ワクチンの追加接種が必要です (2025年4月15日掲載) 百日咳は百日咳菌が感染することで発症します。典型的な症状は発作性の咳で、乳児がかかると非常に重症になり、死亡することもあります。小学生中学生の年代での百日咳は、多くは軽症ですが、典型的な咳発作がおきることもあります。数週間咳が持続し、咳で嘔吐したり、夜間の咳込みのために眠れないことがあります。また、自分自身は軽症でも新生児乳児などの感染源となることもあります。  百日咳予防のために、2025年からは五種混合(百日せきジフテリア破傷風不活化ポリオヘモフィルスb型混合)ワクチンが使用できるようになり、初回接種を生後2か月から乳児期に3回、さらに1歳以降に1回の追加接種を受けます。日本の定期接種スケジュールではそれ以降に百日咳ワクチンの接種はありません。しかし、百日咳菌ワクチンに対する効果は4~12年との報告があり、 海外では小学校入学前以降、思春期に追加接種が行われています 。  2017年末に三種(ジフテリア百日咳破傷風)混合ワクチンが再発売されました。百日咳の予防のために任意接種として、小学校入学前に三種混合ワクチンをお勧めしてきました。また、二種混合(ジフテリア破傷風)ワクチンの11歳から13歳の定期接種を三種混合ワクチンの任意接種へ変更することもお勧めしてきました。しかし、 現在百日咳の報告数が増加 しており、 小学生から10歳代の報告が最も多く、就学前と11歳から13歳の定期接種の時期に三種混合ワクチンの接種を受けていない方は百日咳に対する免疫が低下している可能性が高く、成人も含めて百日咳予防のために三種混合ワクチンの接種をお勧めします。 年齢別の抗体保有率(感染症流行予測調査)  感染症流行予測調査は予防接種法に基づき厚生労働省が定期的に行っている調査です。図1は2023年の年齢別の百日咳毒素(Pertussis Toxin:PT)に対する抗体(抗PT抗体)を持っている人の割合を示しています。乳児の発症防御レベルの目安とされる10 EU/mL以上の抗PT抗体保有率(青線)は、予防接種により乳児期に90%以上になりますが、1歳以降徐々に低下し、4歳には50%以下となります。2023年は保有率の低い状況は、若年成人まで継続しています。 図1 百日...

百日咳が増えています(2025年4月)

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 急激に百日咳が増えています (2025年4月8日掲載) (2025年4月12日追記) (2025年4月15日追記)  百日咳は、新型コロナウルス感染症の流行で報告数が減少していましたが、急激に報告数が増加しています。  典型的な咳の症状が始まった後では、抗菌薬の効果が乏しく、耐性菌も増加しており、発症を予防するにはワクチンの接種が重要です。  百日咳は百日咳菌の感染で起きる呼吸器感染症で、連続する発作性の咳が特徴です。感染力は非常に強く、新生児から高齢者まで感染するリスクがあります。乳児、特にワクチン接種前の乳児が感染すると重症となり死亡することもあります。ワクチンが接種されるようになる前の20世紀前半では最も一般的な小児の感染症で、小児の主な死亡原因の一つでした。  日本では百日咳は、2018年から検査診断された症例を全て報告する制度が始まりました。2019年は15000例(平均1週あたり約300例)を越えていましたが、新型コロナウイルス感染症の流行で減少していました(図1)。1週間の報告数の速報値は2024年中頃から増加し始め、2025年4月6日には5652例が報告され、2024年1年間の報告数を上回りました。 図1 2018年から2025年4月6日までの日本の百日咳報告数  2025年14週(3月31日~4月6日)には722例が報告されました。速報値に遅れて、30例から100例が報告されるます。現在の報告数は、2018年に現在の全数報告制度になってから最多になっています(図2)。 図2 2023年から2025年14週の日本の週別の百日咳報告数(速報値)  東京都の報告数も、2024年中頃から増加しています。14週(3月31日~4月6日)には55例が報告されました。 図3 2021年から2025年14週(~4/6)の東京都の週別の百日咳報告数 東京都感染症情報センター https://idsc.tmiph.metro.tokyo.lg.jp/diseases/pertussis/pertussis/  海外でも、2023年頃から報告数が増加し、英国、ヨーロッパ、中国、米国では過去の報告数と同程度か多くなっています。乳児の死亡例も報告されています。特に中国では2024年の報告数は7月までに40万例を超え、死亡例も23例が報告されています。 図4 海外(米...

生後6か月からの日本脳炎ワクチンの接種を推奨します

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2024年は関東地方での日本脳炎が増えました 生後6か月からの日本脳炎ワクチンの接種を推奨します (2025年2月21日掲載) (2025年3月15日更新)  従来、日本脳炎患者は西日本を中心に年間10例程度が報告されていました。しかし、2024年は、日本脳炎患者9例のうち6例が関東地方から報告されました。関東地方の報告例は東京都1例、埼玉県1例、千葉県1例、茨城県1例、群馬県2例と全域で報告されました。  日本脳炎ワクチンは3歳になると、自治体から予診票が送られてきますが、定期接種の対象年齢は生後6か月からで、無料で接種することができます。今までは、3歳未満の方には西日本に里帰りする際やアジア諸国への旅行する際には接種を推奨していました。しかし、関東全域での日本脳炎報告例が認められたため、生後6か月以上のお子さんすべてに接種を推奨する方針に変更しました。  3歳未満で接種した場合も、接種後の抗体価、接種後の有害事象の発生は、3歳以上で接種した場合と差がないと報告されています。  6か月以上3歳未満の方で日本脳炎ワクチンの接種をしていない方は、蚊の活動が活発になる夏前までに接種を済ませください。予診票を自治体から取り寄せ,ご予約ください。 日本での日本脳炎報告数の推移  日本では1950年頃には5000例の日本脳炎の報告がありました。1954年に世界で最初にワクチンの接種が開始され、1967年に特別対策として広く使用されるようになりました。1995年以降は定期接種として接種されています。ワクチンの接種率向上、生活様式の変化、養豚と農業の近代化などで1992年以降の報告数は年に10人程度に減少しました(図1)。 図1 日本脳炎の報告数(1946~2016年)  報告例は西日本を中心に発生していました。しかし、2024年は、報告例9例のうち6例が関東地方から報告されました。1例が20歳代したが、他の症例は60歳代以上の高齢者でした(図2)。関東地方の症例は東京都1例、埼玉県1例、千葉県1例、茨城県1例、群馬県2例と全域から報告されています。関東地方でも、西日本と同様に日本脳炎に感染するリスクがあると考えられます。 図2 地方別の日本脳炎報告例(2003~2024年) 日本脳炎の原因と症状  日本脳炎は、コガタアカイエカなどの蚊が媒介する日本脳炎ウイルスが原因の感染症です...

フルミスト

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 フルミスト 経鼻弱毒生インフルエンザワクチン  鼻へ噴霧するタイプのインフルエンザワクチンです。日本では今まで承認されておらず、一部の医療機関で個人輸入した海外のワクチンが使用されていました。今回、日本で正式に承認されたために正規のワクチンが使用できるようになりました。2024年~2025年シーズンは販売量に制限があるようです。今年のフルミスト(LAIV)はインフルエンザAH1、AH3、B型(ビクトリア系統)の3種類のウイルスに対応しています。投与された弱毒ウイルスは鼻で増殖し免疫を誘導しますが、肺などでは増殖せず安全性が確保されています。 接種対象者 2~18歳 接種禁忌 妊婦、免疫不全者、免疫不全となる薬物の投与を受けている人 接種回数  1回 投与方法  ワクチンを両方の鼻に少量(0.1ml))ずつ投与します。接種直後にくしゃみが出ても、再投与はしないことになっています。 フルミストの有効性  海外で行われたフルミスト(経鼻弱毒生インフルエンザワクチン:LAIV)の臨床試験では、不活化インフルエンザワクチン(IIV)の有効性に勝るデータが報告されたため、非常に期待され発売されました。  米国では2003年に発売され、2009年以前に報告された3価のLAIVがIIVより有効性が高いというデータから、2014年に2から8歳に対して4価のLAIVをIIVより優先して接種することを推奨しました。しかし、2013-14年シーズンにAH1N1pmd09に対してLAIVは有意な有効性を示さず、IIVは有意な有効性を示したため、2015年にLAIVを優先する推奨を撤回しました。さらに2015-16年シーズンにもAH1N1pmd09に対してLAIVの有効性が低かったため、2016-17年シーズにはLAIVの接種の推奨を中止しました(2017-18年シーズンも推奨しませんでした)。2017年にLAIVに含まれるAH1N1pmd09のウイルス株がA/California/7/2009からA/Slovenia/2903/2015に変更され後に、米国では2018-19年シーズンからLAIVを再推奨しました。しかし、現在まで以前のようにIIVより優先的にLAIVを接種することを推奨はしていません。  一方、英国では接種の推奨を中止することはなく継続され、2~17歳に対...

9価HPVワクチン ① 2回接種と3回接種の抗体価

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9価HPVワクチンの2回接種 キャッチアップ接種の詳細は厚生労働省の「 ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンの接種を逃した方へ~キャッチアップ接種のご案内~ 」をご覧ください。  2014年にWHOはHPV4、HPV2ともに9~14歳の2回接種を推奨し、2017年からはHPV9も9~14歳の2回接種を推奨しています。米国は2016年から9~14歳に対して2回接種に変更しました。   3種類のHPVワクチン 現在、日本では3種類のHPVワクチンの接種が可能です。   2価HPVワクチン(サーバリックス) :子宮頸がんアドの原因となる高リスク型のHPV16、HPV18型   4価HPVワクチン(ガーダシル) :HPV16、HPV18型に加え、尖圭コンジローマの原因となる低リスク型のHPV6、HPV11型   9価HPVワクチン(シルガード9) :HPV6、HPV11、HPV16、HPV18型に加え、高リスク型のHPV31、HPV33、HPV45、HPV52、HPV58型  HPV6・11型は男女の生殖器粘膜にできる良性のイボである尖圭コンジローマの原因の約90%です。9価HPVワクチンは子宮頸がんの原因のHPVの約90%以上をカバーします。 HPVワクチンの有効性の評価  ワクチンの有効性の評価は、対象集団を無作為に「評価するワクチンを接種する集団」と「そのワクチンを接種しない集団」にわけてそれぞれの群での疾患の発生する割合を比較し、ワクチン接種で疾患が減少する割合を検討して有効性を評価します。HPVワクチンの有効性の評価は、高度子宮病変の減少を指標として検討が行われます。しかし、対象の疾患の頻度が低いためにワクチンの発症予防効果を評価できない場合や、4価のHPVワクチンがすでに使用されている状況で9価のHPVワクチンの評価を行うような際など、接種群と非接種群にわけて有効性を検討することが倫理的に許されない場合などに、発症予防との相関性が確立されている抗体価などの代替指標(サロゲートマーカー)を指標として評価する場合があります。しかし、HPVワクチンは発症予防と相関する抗体価は不明です。そこで、HPVワクチンでは新たに有効性を評価する際には、過去の検討で有効性が示されている対象群とのワクチン接種後の抗体価を比較します。 9価HPVワクチンの2回と3...

9価HPVワクチンの2回接種 ② HPVワクチンの効果の持続

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9価HPVワクチン接種後の抗体価の持続   上記の検討の9~14歳の2回接種6か月間隔と12か月間隔、9~14歳の3回接種、15~26歳の3回接種後の抗体価の接種後最大30か月時点までの比較が報告されています(Pediatrics. 2021;147(1):e20194035)。30ヶ月目の時点での抗体価は9~14歳の2回接種(0、6か月)の方が15~26歳の3回接種(0、2、6か月)より有意に高いこと(HPN45、HPV52を除く)が報告されています。9~14歳の12か月間隔の接種は、6か月間隔の2回接種、3回接種よりも高い抗体価で維持する傾向が報告されています(図5)。 図5 9価HPVワクチンの接種年齢別の抗体価の有意 4価HPVワクチンの接種回数別の長期の有効性と抗体価  2009年にインドでは10~18歳を対象に4価HPVワクチンの2回接種と3回接種の比較の検討が開始されました。しかし、7例のワクチンと関係ない死亡のために当局がHPVワクチンを中止したために、従来の計画の検討も途中で中止されました。その結果として、3回接種群(0、2、6か月)、2回接種群(0、2か月)、2回接種群(0、6か月)、1回接種群の4つのコホートができました(図6)。 図6 4価HPVワクチンの2回接種と3回接種の有効性の検討(インド)   約10年間経過観察し、有効性と抗体価が報告されています。HPV16、18型の持続感染のワクチン未接種者に対する有効性は3回接種群(0、2、6か月)で93.3 %、2回接種群(0、6か月)で93.1%、1回接種群で95.4%でいずれの接種群でも有意差を認ませんでした(図7) 。   図7 4価HPVワクチン接種回数別の有効性 (HPV16/18の持続感染予防に対する有効性) HPV16、18型に対する抗体価は1回接種では有意に低値でしたが、10年後の3回接種群(0、2、6か月)と2回接種群(0、6か月)の抗体価は有意差を認めませんでした(図8)。これらの検討から、低い抗体価でHPVの持続感染を予防できる可能性や、測定している抗体以外の経路を介して持続感染を予防している可能性などが示されています。   図8 4価HPVワクチン接種回数別の抗体価の推移 9価HPVワクチン 2回接種と3回接種の抗体価

小児の新型コロナウイルス感染後の死亡例

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小児の新型コロナウイルス感染症後の死亡例   2022年12月28日に、国立感染症研究所実地疫学研究センター及び 感染症疫学センターから新型コロナウイルス感染後の20歳未満の死亡例に関する積極的疫学調査(第二報)が公表されました。 https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001032301.pdf  調査期間の20220年1月1日から9月30日に20歳未満の小児の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)で62名の方が亡くなられていました。亡くなられた方のご冥福をお祈りいたします。 1.小児COVID-19の発症時期  死亡例は、28週(7月11日~7月17日)から増加を認め、33週(8月15日~8月21日)が8例と最多でした。(図1は発症時期が不明な1例を除いた61例の発症時期) 図1 新型コロナウイルス感染後の20歳未満の死亡例の報告数 (n=61 2022年1月1日~9月30日)  62名のうち調査が実施できた57名が対象となり詳細が報告されています。57例のうち50例が内因性死亡、7例が外因性死亡でした。 2.年代別の小児COVID-19の内因性死亡  2022年1月から9月までのCOVID-19後の内因性死亡と考えられた50症例の年代別の症例数は、生後0から5か月が3例、6か月から4歳が21例、5歳から11歳が20例、12歳から19歳が6例でした(図2)。現在の接種対象年齢となっているが、接種率が低い生後6か月から11歳が82%を占めていました。 図2 COVID-19による年代別の死亡 (内因性死亡 n=50 2022年1月1日~9月30日) 3. COVID-19内因性死亡例の基礎疾患  基礎疾患は、50例のうち、基礎疾患あり21例(42%)、なし29例(58%)でした(図3)。基礎疾患は、中枢神経疾患7例、先天性心疾患5例、染色体異常5例などでした(重複あり)。年齢は基礎疾患ありの中央値は4.0歳、基礎疾患なしが6.0歳でした。 図3 COVID-19内因性死亡例の基礎疾患 (20歳未満 n=50 2022年1月1日~9月30日) 4. COVID-19内因性死亡小児のワクチン接種歴  2022年年2月21日から5歳から11歳の新型コロナワクチンの接種ができるようになり、さらに2022年10月24日か...