百日咳
百日咳
典型的な咳の症状が始まった後では、抗菌薬の効果が乏しく、耐性菌も増加しており、発症を予防するにはワクチンの接種が重要です。
ワクチンの効果は数年で低下するため、追加接種が重要です。
百日咳は百日咳菌(Bordetella pertussis)の感染で発症します。パラ百日咳菌(Bordetella parapertussis)などの類縁菌も同様の症状を起こします。多くは飛沫感染で感染します。感染力は非常に強く、潜伏期は7~10日(最長21日)で、典型的な症状は、3つの段階に分けられます。発熱は通常ありません。
症状
カタル期(1~2週間)
かぜ症状で始まり、次第に咳が激しくなります。
痙咳期(2-3週間持続)
発作性の咳(痙咳)がおきます。息継ぎのない連続的な短い発作性の咳(スタッカート)が特徴です。息を吐ききった後に狭くなった声門から必死に息を吸おうとすることで生じる特徴的なヒューヒューという音が続くことがあります(笛声:whoop)。咳嗽発作をくり返し(レプリーゼ)、チアノーゼが起こり、続いて嘔吐することがあります。発作は、食べること、笑うこと、泣くこと、その他さまざまな刺激によって引き起こされる可能性があり、通常は夜間に悪化します。
乳児は咳発作などの典型的な症状を認めず、無呼吸、痙攣、呼吸停止。肺炎、脳症、肺高血圧を合併し、死亡することもあります。
回復期
非発作性の咳は数週間続くことがあり、ウイルス感染の併発により発作が再発することがあり、咳が長期に継続することがあります。
思春期・成人の百日咳
成人でも咳が持続し、典型的な咳発作を認めることもあります。基礎疾患がある感染者の死亡も報告されています。しかし、多くは典型的な発作性の症状を示しません。軽症例では診断されれずに、百日咳菌を排出するために新生児、乳児に対する感染源となることに注意が必要です。
治療
抗菌薬を投与します。以前より、マクロライド系の抗菌薬が第一選択薬として使用されてきました。カタル期に開始すると、症状が軽減できる可能性があります。痙咳期に開始した場合は、症状の改善に影響しないかもしれませんが、百日咳菌の伝播を抑えられる可能性があり、投与が推奨されています。他の治療法は科学的に有用である証拠があるものはありません。症状、重症度に合わせて治療が選択されます。
また、近年中国を中心に、マクロライド耐性菌が報告されています。日本でも2024年以降報告が増加しています。
ワクチン
日本では、1950年に予防接種法で対象疾患になっています。1950年に単味百日咳ワクチン(P)が導入され、1958年にはジフテリア・百日せき混合ワクチン(DP)が使用されるようになり、1968年以降は沈降破傷風トキソイド(T)を混合したジフテリア・百日せき・破傷風三種混合(DPT)ワクチンが定期予防接種に採用され、百日咳の報告数は減少しましたました。当時、使用されていた全菌体百日咳ワクチンと脳症など重篤な症状との関連が問題となり、接種率が低下し百日咳の届出数と死亡例が増加しました。1981年から世界で初めて無細胞百日咳ワクチンを含む3種混合ワクチンに変更となり、報告数は減少しました。2012年からポリオワクチンを含む4種混合ワクチンとなり、2024年からヒブワクチンを含む5種混合ワクチンが使用できるようになりました。現在は定期接種としては五種混合ワクチンを使用し、生後2か月から3回接種し、最低6か月はあけて1回追加接種します。
日本、米国の百日咳流行期の検討では、ワクチン接種後(日本ではDPTワクチ4回接種後、米国では5回接種後)1年以内は高いワクチンの有効性(Effectiveness)を認めますが、ワクチン接種後の経過とともに有効性が低下するため、追加接種(5~6歳と11~12歳)が必要です。
また、ワクチン接種開始前の新生児期乳児期の重症百日咳を予防するために、妊娠中の3種混合ワクチンが最も重要です。