HPVワクチン の早期接種の重要性 ②
HPVワクチン の早期接種の重要性 ②
浸潤性子宮頸がんに対する早期接種の効果
子宮がんは子宮の入り口(子宮頸部)にできるがんで、ほとんどはヒトパピローマウイルス(HPV)の感染が原因です。
最近の研究から、接種開始年齢が若いほど、浸潤性子宮頸がんリスクの予防効果が大幅に高いことが判明しました。これは、HPVワクチンには、すでに感染に対する治療効果がなく、性交渉を介したHPV曝露前に接種することで最大の利益をもたらします。
子宮頸がんとHPVワクチン
HPVは200種類以上の遺伝子型がありますが、このうちの約13種類の高リスク型HPVが子宮頸がんの原因となります。HPVは性的接触で生じた小さな傷から侵入し子宮頸部上皮の最下層にある基底細胞に感染します。女性の80~90%が生涯に一度はHPVに感染し、男性も同様で、HPVはありふれたウイルスです。HPVに感染しても、通常無症状です。感染した女性の多くではHPVは消退しますが、ごく一部の人が持続感染を起こし、子宮頸がんに進展する場合があります。
HPVの感染した基底細胞が、表皮形成の分化を始めるとウイルスが増殖し、正常細胞と形や大きさが異なる異型細胞となります。まず軽度異形成(CIN1)が生します。HPV感染が持続すると異型細胞が上皮層の基底膜から1/3以上に達し、中等度異形成(CIN2)となり、さらに2/3以上を占めるようになると高度異形成(CIN3)となり、上皮の一番外側まで異形細胞が増殖すると上皮内がんとなります。基底膜を越えて浸潤すると、浸潤がんに進行します(図1)。高度異形成と上皮内がんは浸潤がんへ進行するリスクが高くなります。
![]() |
図1 HPVと子宮頸がん(扁平上皮がん)の進展 |
高リスク型HPVの持続感染が一定期間(少なくとも6か月以上)続くと、子宮頸がんの前がん病変となるリスクが高いとされています。なお、子宮頸部病変の進展は一方向的ではなく、退縮することもあります。このように子宮頸がんの発症には、CIN病変が進展・退縮するため、感染後数年から数十年が必要と考えられています。また感染したHPVの遺伝子型によっても、子宮頸がんの発症リスク、発症までの期間が異なります。さらに、喫煙、経口避妊薬の摂取、出産回数、性交渉パートナー数なども関与すると考えられています。
G7諸国は子宮頸がんの罹患率、死亡率は減少していますが、日本だけは減少傾向はなく増加しています。現在日本では1年間に約1万人が子宮頸がんを発症し、約2800人が死亡しています。
HPVワクチンの浸潤性子宮頸がんに対する有効性
HPVワクチンの究極の目標は、主要な発がん性高リスクHPV型の感染を防ぐことで浸潤性子宮頸がんを予防することです。これまでのランダム化比較試験や観察研究により、4価HPVワクチン(6, 11, 16, 18型)が以下の疾患に対して有効であることは既に証明されていました。
・ HPV感染
・ 尖圭コンジローマ
・ 高度の子宮頸部前がん病変(CIN2+、CIN3+)
しかし、HPV感染から子宮頸がんの発症までには長い期間があること、またワクチンの普及後に接種率が高くなると発症する子宮頸がん症例が少なくなり、浸潤性子宮頸がんそのものに対するワクチンの有効性を評価したデータはこれまで不足していました。しかし、はじめて2020年にスウェーデンからの4価HPVワクチン(HPV4)の浸潤性子宮頸がん予防に対する有効性が報告されました。その後、他の国からも浸潤性子宮頸がんに対する有効性が報告されています。
スウェーデンの浸潤性子宮頸がん予防に対する有効性
この報告は、スウェーデンの全国民を対象とした詳細な登録制度を活用し、 2006年から2017年に10歳から30歳で登録された1,672,983人を対象に行われたHPV4の有効性のコホートスタディです。スウェーデンでは、2006年からHPV4が使用されていました。当初、3回接種スケジュールで投与されましたが、2015年からは学校でのワクチン接種プログラムで2回接種スケジュールが採用されています。
1回以上のHPVワクチン接種歴がある527,871人と接種歴がない1,145,112人を30歳まで観察し、それぞれの群での子宮頸がんの発症からワクチンの有効性が検討されました。 438,939人(83.2%)は17歳未満で1回以上の接種を受けていました。ワクチン接種群で19例、非接種群では538例が浸潤性子宮頸がんを発症しました(図2)。
発症はスウェーデンでの検診が開始される23歳から増加しました。ワクチン未接種の女性での累積発生率は30歳までに10万人あたり94例に急激に増加しましたが、ワクチン接種を受けた女性全体の累積発生率は30歳までに10万人あたり47例でした。17歳から30歳でワクチン接種を開始した女性の累積発生率は30歳までに10万人あたり54例でした。17歳未満でワクチン接種を開始した女性では、28歳までに10万人あたり4例の累積発生率でした(図3)。
![]() |
図3 スウェーデンの初回接種年齢別の子宮頸がん累積罹患率 |
年齢、居住地などで調整した後、ワクチン接種を受けた女性全体とワクチン未接種の女性を比較した子宮頸がんの発生率比は 0.37(63%減少)でした。ワクチン接種開始時の年齢で検討すると、17 歳未満で初回接種を受けた女性での発生率比は0.12(88%減少)、 17 歳から 30 歳の間に初回接種を受けた女性での子宮頸がんの発生率比は 0.47(53%減少)でした(図4)。
![]() |
図4 スウェーデンの初回接種年齢別の子宮頸がん発生率比 |
デンマークの浸潤性子宮頸がん予防に対する有効性
デンマークでは2009年から12歳女児を対象としたHPV4の接種が開始されました。(2008年には13~15歳、2012年には27歳までのキャッチアップ接種が行われました。)
全国登録データから2006年10月から2019年12月までにデンマークに居住していた17歳から30歳の女性を対象としたHPVワクチンの接種状況による子宮頸がんの発生率比が検討されました。867,689人の女性を対象としたコホートスタディです。36.3%が16歳以下でワクチン接種を受けており、19.3%が17~19歳で、2.3%が20~30歳でワクチン接種を受けていました。
16歳以下または17~19歳でワクチン接種を受けた女性における子宮頸がんの発生率比(IRR)は、ワクチン未接種の女性と比較して、それぞれ0.14(86%減少)および0.32(68%減少)でした。ワクチン接種開始時の年齢が20~30歳の女性では、有意な減少を認めませんでした(図5)。
デンマークでは、HPVワクチンに対する否定的なメディアの広範な報道により、2015年から2016年にかけてワクチン接種率が劇的に低下しました。しかし、デンマーク保健当局、デンマークがん協会、デンマーク医師会の協力で 「Stop HPV」というキャンペーンが行われ、早期に接種率が回復しています。
イギリスの浸潤性子宮頸がん予防に対する有効性
2008年から12歳から13歳を対象に2価HPV2の接種が開始されました。さらに、2010年までの2年間は14歳から18歳までにキャッチアップ接種が行われました。12歳から13歳、14歳から16歳、17歳から18歳の3群にわけて、ワクチン接種による子宮頸がんの減少が検討されました。 なお、HPVワクチン開始前の1989年5月1日から1990年8月31日の間に生まれた女性の20歳から30歳までの浸潤性子宮頸がんの発生をワクチン未接種群のデータとし検討が行われました。12歳から13歳に初回接種を受けた女性では87%、14歳から16歳に初回接種を受けた女性では67%、17歳から18歳に初回接種を受けた女性では34%浸潤性子宮頸がんの発生が減少しました(図5)。
![]() |
図5 初回接種年齢と子宮頸がん発生率比 |
HPVワクチンの接種率が高い国では、子宮頸がんの発生が減少し、子宮頸がん根絶(人口10万あたり4人の発生)が視野に入っている国もあります。





